
今日はLINEさんの開発者向けイベント「LINE DEVELOPER DAY 2018」に初めて参加してきたので、例のごとくクソ長い参加レポートをば。自分が参加したセッションは下記の通りchatbot/Clova/IoT関連が中心。
- 基調講演
- 実演:LINE API新機能の総まとめ&新機能全部入りのchat botデモンストレーション
- パネルディスカッション: グローバルな組織で働くエンジニアから見たLINEのエンジニアカルチャー<ランチセッション>
- 人気開発者によるClovaスキル創出手法とこれからのVUI活躍のための3つのキーワード
- モノからつながる世界・モノから広がる世界へ LINEが手がけるIoTへの取り組みとその未来
- いま考えられる限り最も速く対話型アプリを開発する方法
- サーバーレスで!Clovaスキル開発入門 (C#)
- 今日作れるスマートスピーカースキル – Clova SDK ライブコーディング –
- クロージング
資料は後日まとめてエントリーが公開されるとのこと。
最初にまとめ(全体を通じた所感)
自分はClovaを入口にLINEの技術に触れるようになったのだが、ClovaがMessaging、PayといったLINEプラットフォームの基盤技術を連携できるところが本当に魅力で、AlexaやGoogle Homeに対する優位点と感じる。逆にいえば、Clovaスキルやサービス開発において連携は必須となっているし、今後もその傾向は高まるばかりだろう。そのためにも、LINEの技術全般に目を配る必要がある。
今回一番印象的だったのは「LINE Things」の開発者向けリリースのセッション。これが普及すると、生活の中に一段とITが入り込める、そういうインパクトのある技術だと感じた。それ以外のセッションも非常に楽しく、ただひたすら勉強になった。
基調講演
LINEのCTO、朴さんによる基調講演。まず冒頭で、LINEのリリースしている様々な技術の中からホットなものとしてClovaとLIFFが紹介された。次に、LINEのミッションである’Connect’を支える技術として「AI」、また利用者-開発者-LINK Chain(LINEのトークンプラットフォーム)の相互に有益なエコシステムを成立させるための技術として「Blockchain」の2つに注力しているとした。
池邉さんによるAIパート。Clova(AIサービス)はトヨタとの提携など活用分野が広がっており、パーソナライゼーション、画像検索/認識、表情読み取り等がLINEのプロダクトへ実適用されている。さらに開発中機能としてNLU(自然言語理解)のchatbotへの組み込みが紹介された。LINEのAI技術についてはデモサイトが公開されている。
次に那須さんによるBlockchainパート。LINK Chainでは透明性・安全性の確保された決済サービスを提供、対応アプリ(dApps)は開発・運営の負担少なく利用者にサービスを提供できるとした。既にLINEの3つのプロダクト(BITBOX、Wizball、4CAST)に実装されており、2019年1Qにはパートナー向けに、2Qには一般開発者向けの公開を予定している。
続いてサービス面では、Fintech領域について池田さんから紹介があった。提供済みサービスではLINEウォレット、LINE Pay、BITBOX(仮想通貨取引)、LINEほけん、LINEスマート投資、PFMS(個人資産管理)が紹介。開発中サービスとしてLINE Pay for ID(他社ECサイト向け決済サービス)、FIDO(生体認証技術)への取り組みが紹介された。特にFIDOはLINEはボードメンバーとして規格標準化に関わっているとのこと。
個人的には、LINEの強みはメッセージングサービスにあると考えていたが、それ以外の領域でもプラットフォーマーとなるべく開発を進めている印象を持った。
実演:LINE API新機能の総まとめ&新機能全部入りのchat botデモンストレーション(中嶋さん)
LINEのchatbot系新技術を紹介しつつ、特に重要なアップデートをデモアプリで詳しく見せてくれるという、最初からテンション上がるセッション。デモで取り上げられたのはFlex Message/Quick Reply、LIFF、ClovaCEKの3点。
デモに使用されたのはLINEで開発し行政(福岡市)に提案、採用された粗大ごみを出す手続きができるchatbotに、上記機能を組み込んだバージョン。LINEメッセージをリッチにできるFlex Message、LINEアプリ内でWebインタフェース (JavaScript)を動かせるLIFF、音声インタフェースのClovaCEKが一体となってユーザ体験をより良いものにしていることを実感できた。特にClovaとchatbotは構造が似ている(フロントにチャンネルがあり、本体処理はバックエンド)のでバックエンドは共通化できるとした。
個人的には自由度の高いLIFFに可能性を感じている(と思ったらIoTがらみで早速拡張が入っていた)。また冒頭で「対話型アプリは、自然言語処理やデバイスが出揃いつつもキラーアプリがない現状にありとても面白い」との発言があり、これには大変共感した。
パネルディスカッション: グローバルな組織で働くエンジニアから見たLINEのエンジニアカルチャー(藤原さん、他3名)
ランチセッションだったが、思わずメモを取る面白さ。LINEはアジアの各拠点に2100名のエンジニアを抱えており、これを3000名まで増やす計画があるとのこと。日本国内は東京・京都・福岡の3カ所で、半数以上が外国人、技術者間は主に英語でコミュニケーションとグローバル化が進んでおり、地域をまたいだ開発体制も置かれている。
LINEのエンジニアカルチャーの象徴として3つのコアバリュー(大切にすべき価値)が紹介されたが、これがエンジニアに限らず、チームで仕事をするには不可欠と感じた。
- Take Ownership(各々の価値を主体的に発揮する):部分最適化ではなく、チームのためにという点が大切か。
- Be Open(オープンであれ):ソースコードはほぼ全て閲覧可能、ドキュメント化の文化も浸透している。これは立派だなあ。
- Trust & Respect(他者の仕事に敬意を持ち接する):評価制度にも反映されてるらしい。どうやって制度実装しているのか知りたい。
人気開発者によるClovaスキル創出手法とこれからのVUI活躍のための3つのキーワード(立花さん)
エヴァンジェリスト立花さん司会による、「Developer of the Month」に選出された開発者によるClova開発関連のセッション。
VoiceApp Labのコバヤシトールさんは「ユーザーの心をつかむスキルの法則」と題し、自作スキルを例に説明された。現実とスキルの境目を無くすことで没入感を出す、登場人物の声が持つキャラクター性を大切にする、スキルを使っている以外の時間の過ごし方をスキルでコントロールする、子供向けスキルでは親子の両方のニーズに応える、会話シナリオをシンプルにする、などの工夫しているとのこと。また電車や駅、交差点など街中で聞こえてくる音を観察することも役立つ、とした。
神戸デジタルラボの金谷さんは「VUIの未来とLINEプラットフォームの未来」と題し、同じく自作スキルを例に、今後のVUI活用における3つのキーワード( Public Place、Accessibility、IoT)を紹介した。特にIoTについては、データの収集~分析~可視化においてClovaは収集と可視化の部分に強みがあるとした。自分もLINE Things、LINE Pay、LIFF、Messagingといったサービスと組み合わせられるのは唯一LINEだけが持つ強みで、BtoCだけでなくBtoBでもLINEが使われるようになるのでは?とも思っている。
モノからつながる世界・モノから広がる世界へ LINEが手がけるIoTへの取り組みとその未来(高久さん)
まず、IoTの普及に向け、家族でも簡単に使える、また一度きりの用途でも使えるといった「もっと気軽に使えるIoT環境の実現」が課題とした。そしてLINEのIoTへの取り組みとして、Messaging APIやClovaとの連携、LINE Beaconを紹介した。
そして「気軽に使えるIoT環境」として「LINE Things Developer Trial」のリリースを発表した。ポイントは下記の通り。
- あらかじめLINEアプリと連携させたLINE Things対応BLEデバイスがあると、その検知と接続をLINEアプリが行う
- LINEアプリは起動しておく必要はないとのこと(バックグラウンドタスク?)。この機能のみ2019年にリリース
- デバイスとのデータ送受信はLINEアプリが行ない、LIFF SDK BLE plugin(LIFFの拡張来た!)によるアプリケーション開発が可能

そして、LINE Things Developer Trialはドキュメントが公開済。早速ESP32を使ったハンズオンも予定されているが、既に満員御礼。自分も出遅れたのでWaitlist入りした。Things、とても面白そうな技術と感じた。
いま考えられる限り最も速く対話型アプリを開発する方法(マイクロソフト中村さん)
最新の開発環境、特にライフサイクルの「計画~開発/テスト」フェーズにおけるツールについての知見が高まったセッション。結論は「最強のエディタ(MS的にはVSCodeか)、使い慣れた言語で、テンプレートとツールを活用しろ」ということで、紹介された主なツールやテンプレートは下記の通り。
- LINE Bot Designer:モック作成やシナリオ共有などに使える。GUIで、開発者でないデザイナーなどでも利用可能
- コミュニティSDK:コミュニティ発のSDK、ライブラリやツール類もLINE Developersサイトにリンクが一覧化されてて親切。LINE Messaging API for C#とかある
- Yeomanテンプレート:npmパッケージ。これを使うことで他プロジェクトのコピペから脱出!
- LINE Simulator:ローカルにchatbotのバックエンド環境を構築。入力シナリオの自動実行、スタンプ発行、システムイベント、Beacon、テンプレートメッセージにも対応
- Clova Simulator:同じくClovaのバックエンド環境を構築
他にも、リッチメニューマネージャ、LIFF管理、Flexメッセージシミュレータなども紹介された。開発環境ひとつで効率も上がると思うので、本当に役立つ情報が得られたセッションだった。
サーバーレスで!Clovaスキル開発入門 (C#)(マイクロソフトちょまどさん)
初心者向けのClovaスキルセッション。前半はお馴染みとなった、自虐込みのスマートスピーカー比較(MSもAppleも日本では売ってくれませんね)、スマートスピーカーの基本アーキテクチャ、用語について解説。後半では自分の最新ブログ記事の見出しを読み上げるデモスキルを使って実装のポイントを紹介。バックエンドはもちろんAzure Functions、言語はC#(Node.jsも使えるとフォローしたのはさすが)。RSSフィードのXMLをパースし、必要な部分を抜き出して、Clovaの応答メッセージとし、さらにはMessaging APIと連携させLINEアプリ側にも通知といったデモを実演。もはや、ClovaスキルはLINEとの連携は常識なのかも。
彼女の素晴らしい所は、当日の発表資料・ソースとも公開済の状態で登壇されているところ。資料は見放題だし、すぐ試せるし、これだけで心理的障壁がぐっと下がっているはず。しっかりAzureの普及に貢献してるなあ…。あと冒頭の登壇者紹介が「ちょまど様」ってちょっと面白かった。
今日作れるスマートスピーカースキル – Clova SDK ライブコーディング -(望月さん)
ライブコーディングが始まる…と思いきや、冒頭は「ユーザーインタフェースは、ユーザーの気持ちを先回りした応答が大切」という話から始まった。例えば「あとxx件のメッセージがあります。続きを聞きますか?」といった応答があるとして、そこにたどり着くまでにユーザーはどんな気持ちになっているかを考えると最適でない場合がある、ということ。シナリオ設計は答えがひとつではないので、考えることが多い。
後半はライブコーディングなのだが、使い慣れているという理由でGo言語によるコーディングが始まった。これはこれで面白いけど、完全に予想外だった。そして、ちょまどさんのセッション同様に、ここでもClovaとMessagingの連携が。今後の必須要件だよ、と言われているかのようだった。
クロージング(砂金さん)
このイベントが開発者向けの技術イベントであるとともに、実は強力なリクルーティングの手段になってるのだなあというのを改めて確認。でも実際、面白い技術があり、自由に楽しく働ける環境があれば人は集まってくるわけで。こういう会社と人材を争っていくのか、という大変さも確認した。
ともあれ、技術を通じて他人と交流する楽しさは格別だし、そういう場をこの規模で用意できる会社は素敵だ。イベントの開催、ありがとうございました。